彼を見る目が変わった1枚のメモとひとつのみかん

生まれも育ちも岡山県の女性、ミカです。大学を卒業後、就職を機に大阪へ出てきて憧れの一人暮らし。とある会社のSE(システムエンジニア)として、忙しく働いていた20代の頃のことです。

身を削りながらも充実していた私の毎日

SE(システムエンジニア)としての日々の仕事はとても忙しく、出張に行くこともあり部屋にこもってプログラミングをすることもあり。

仕事がなかなか終わらないときは、帰りが深夜になることも良くありました。

今考えるとブラック企業のような状況で、働いた分だけ給料がもらえるわけでもなく、本当に身を削るような毎日でした。

それでも、私なりにこの仕事に誇りを持っていて、バリバリ働く自分に満足していました。

部下もいて、それなりに重要な仕事を担当させてもらうこともあり、まるで自分が偉くなったような気分で少し天狗になっていたと、今なら思います。

自分とは対象の、ホワイト企業に勤めていた彼

就職前から付き合っていた彼は、いつも疲れていた私を気遣ってくれる優しい彼でした。職場も職種も違い、彼はいつも定時上がり、休みもしっかり取れる職場でした。

なので、私の仕事の都合でデートをキャンセルすることがしばしばありました。でも彼は怒ったり不満を見せたことはなく、謝る私を笑って許してくれるような人でした。

彼には何かが足りない。でも何かは分からない

しかしその頃の私は、仕事ができて、夢を追いかけているような男性に憧れていました。正直今の彼では何か物足りないような気持ちでした。

彼に対して「燃え上がるような恋」のような気持ちにはならず、「お兄さんのようにしか思えない」と別れを切り出したこともあります。

しかし彼は、

「まぁ僕のことを嫌いになったのでなければ、次に好きな人ができるまで僕と付き合ってみなよ。もし好きな人ができた、とか、僕のことが本当に嫌いになったときがきたら、もう一度話そうよ」

と言ってくれ、なんとなく言いくるめられたような気分でずるずると付き合い続けていました。

彼との連絡が減っていく毎日

そんなある時期、仕事が今までになく忙しくなりました。帰りは深夜、土日も出勤、休日を取ることもできない日が続きました。

自宅に帰っても食事をとる気力さえなく、ベッドにそのまま寝てしまう毎日でした。会社でも、皆同じように疲れていて、職場はぎすぎすした雰囲気。

笑った記憶もなく、ただただパソコンの前に向かって仕事、仕事、仕事…。もちろん彼と会う時間もなく、日々の連絡もメールで1日1回「今帰ったよ~」くらい。

その彼からの返事にも答えないまま、服も着替えず気絶するように寝てしまっていました。

ある日の彼からの置き手紙

その日も会社から深夜1時くらいに帰宅しました。

いつもの通り疲れ果てていて、もう寝ようとしたとき、テーブルの上に小さなメモ用紙が置いてあるのに気づきました。

何だろうと思ってみると、彼からのメモのような短い手紙。

○○ちゃん

いつもお疲れ様。

仕事忙しいだろうけどちゃんと食べないとダメだよ。

シチューをタッパーに入れて冷蔵庫に入れておいたよ。

暖めて食べなさい。おミカンはビタミンC。

 

手紙のはしを押さえているのは、みかんひとつ。

レンジでシチューを温めて、ひとくちひとくちシチューを口に入れました。

彼の手作りのシチューは、すごく上手なわけも無く。

でこぼこで口に入れるには大きくて食べにくい、じゃがいも。

絶対皮を分厚くむいたなと思われる、ニンジン。

なぜか大量の玉ねぎ。

煮すぎてなんだかかたいお肉。

それなのにすごく美味しくて美味しくて。

涙が止まりませんでした。

 

ミカンに「お」をつける彼に笑いがこみ上げて。

「ビタミンCって。おかんかよ…」

って、わざとらしく一人でしゃべりながら、ゆっくりゆっくり最後まで食べました。

疲れに気づかなかった自分と向き合うきっかけ

久しぶりに食べた暖かい食べ物は、あなたはこんなにも疲れていたんだよと言っていました。

体だけでなく、心もこんなにちくちくささくれ立っていたんだよ、と。今彼に会いたいな、と初めて彼とすぐ会えないことが寂しくなりました。

厳しい職場と家の往復の毎日。

こんなにほっとする優しさを感じたのは、本当に本当に久しぶりでした。ずっといたい人は、職場にいるような仕事がばりばりできる、私が憧れていたような男性じゃない。

将来に夢を持っていて、その夢ばかりを見て追っている男性じゃない。顔が好みとか体系がいいとか、そんなことじゃない。

一緒にいてほっとする人。自分のことをちゃんと見てくれている人。誰かのために何かをしてあげようと思ってくれる人。

私って男を見る目ないなぁ…と、自分の愚かさが身にしみました。

 

あれから約20年。もちろん、今隣にいるのはずっと付き合っていた彼です。

彼を選んだことが、私の誇りです。